2017年11月30日

業況短信の見方

 今月は,外食チェーン企業の業況を見ていきたいと思います。当然のこととして企業によって業績が良かったり悪かったりということがあり,また業績の良い企業にも波があるので今良くてもこれから悪い局面が来ないとは言い切れません。
 筆者としては,この施策が奏功したから業績が好転した,ここでの拙策が悪化を招いた,などと後付で批評するのはナンセンスであり,それらはすべからく「平均への回帰」を表しているに過ぎないと考えています。したがって業況を見る際には,既存店売上ベースあるいは12ヶ月売上移動累計などからトレンドの上がり下がりを概観し,売上や利益の波が回復不能な異常値を示していないかをチェックする,というスタンスをとっています。

 とまれ,今月の業況関連の新聞記事は下記のとおりでした。今月最大のトピックスは,幸楽苑HDの「いきなりステーキ」FC加盟,だったと言えるのではないでしょうか。不振店52店を「いきなりステーキ」に業態転換させるという方針は,時間のかかる独自業態開開発ではなくFC加盟による業績回復のスピードを求めた経営判断であった,と評価できます。
 幸楽苑HDは好調な日高屋と比較されがちですが,ロードサイド型の幸楽苑と繁華街型の日高屋では,もともと業態が違います。業績の差は,伸び悩むファミレスニーズに依拠していた幸楽苑よりも,拡大している「ちょい飲み」ニーズを捉えた日高屋のほうに歩があったもの,と解釈できます。この不振時にあえてFC加盟による多角化,リスク分散というドラスティックな手を打った幸楽苑HDの動向を,大いに期待感をもってウォッチしていきたいと思います。

 その他,モスバーガーやサンマルクの苦戦,復調してきたワタミ,好調なトリドール,などの記事が見えました。これらも前述したように「経営の波」の一局面であることは自明であり,コンサルタントは直近の表面的な業況を安易に批評するのでなく,大きな外食マーケットのトレンドを捉えて未来を予測しなければならない,と自戒するところです。

●幸楽苑HD、「いきなりステーキ」をFC展開(日経MJ:2017/11/01:P19)
●マクドナルド23ヶ月連続で前年同月比がプラス(日経MJ:2017/11/8:P19)
●トリドール好調,上半期は前年対比15%増の純利30億円(日経朝刊:2017/11/9:21P)
●値上げの鳥貴族は10月3.8%の減収(日経MJ:2017/11/10:P15)
●モス苦戦,上半期は前年対比17%減の純利15億円(日経朝刊:2017/11/11:13P)
●幸楽苑,上半期は初の赤字で52店を閉店(日経朝刊:2017/11/11:7P)
●ワタミ,脱「和民」で17年4〜9月期に経常黒字化(日経朝刊:2017/11/15:P17)
●サンマルクHD,今期は減益で前期比17%減の36億円(日経朝刊:2017/11/15:P19)
●ゼンショーHD,多角化裏目で株価7ヶ月ぶりの安値圏(日経朝刊:2017/11/17:P17)


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posted by 山岡雄己 at 23:41| Comment(0) | 時評

2017年10月31日

外食チェーンの価格政策

 今月は,外食チェーン各社の価格政策について概観します。残業代支払いや社会保険加入の厳格化,時給アップや採用難による人件費の高騰,また食材や飲料(特にビール)の値上げによる原価の上昇で,大手外食チェーンは値上げを余儀なくされています。串カツ田中は7月からハイボールを370円から390円に,いきなりステーキは7月からリブロースステーキを1グラム6.5円から7.3円に,リンガーハットは8月10日から西日本エリアにおいて長崎ちゃんぽんを520円から540円に,ハイディ日高は9月から餃子を210円から220円に,つぼ八は10月より生ビールを460円から470円に値上げしています(日経MJ:2017/9/29:1P)。
そしてついに,安さの代名詞のように言われていた「鳥貴族」も,10月から焼鳥や酒類を280円から298円に値上げしました。鳥貴族にとっては28年ぶりの値上げとなり,大倉忠司社長は「食材や人件費の高騰により苦渋の決断をした。ただし300円を超えてしまうとお客様への負担感が大きくなるので298円とした」と語っています(日経朝刊:2017/9/29:17P)。

 また,アサヒビールが2018年3月から業務用を中心としてビール系飲料を値上げすると発表しました(日経朝刊:2017/10/5:15P)。6月には,スーパーなどでのビール類の安売り規制に国税庁が動きましたが,業務用も何らかの指導があったものと思われます。世界的に見れば,アルコール業界はグローバルなM&Aによる再編が続いており,日本のビールメーカーも経営基盤を盤石にしておかないと外国の大手アルコールメーカーに飲み込まれてしまうかもしれません。憶測ですが,当局はそのような事態が税収低下につながることを恐れたのでは,とも考えられます。いずれにしろ,どの外食チェーンも懐事情が苦しいのは同様であり,これを機に安売りのチキンレースを終わらせて値上げをしようとする動きが本格化してくるでしょう。

 ところで,外食業界では値上げの機運が高まっていますが,その中であえて「安売り」をすることでニュース性を持たせる,というマーケティングも有効です。回転ずしチェーン4位の「かっぱ寿司」は,11月下旬から1皿1貫にして50円で発売,併せて11月1日から22日までお昼のアイドルタイム限定で男性1,580円,女性1,380円食べ放題を実施します(日経MJ:2017/10/30:19P)。串カツ田中は11月1日から11日の午後6時から9時までのピーク時間を除いて,Yahooプレミアム会員の予約者限定で1,111円の串カツ11種類食べ放題を実施します(日経MJ:2017/10/30:19P)。

 外食主要34社の9月の既存店売上高は,6割が増収,8割が客単価アップということで好調(日経MJ:2017/10/23:11P),一方で東京商工リサーチによると2017年上半期では飲食業の倒産件数は370件で前年同月比21.1%増と3年ぶりに増加(日経MJ:2017/10/30:15P),ということで,ダーウィンではありませんが「変化に対応したもの」が生き残っているように感じます。これから向こう1年くらいの価格政策を中心としたマーケティング施策の巧拙が,外食チェーンの業績を大きく左右しそうです。
(文中の価格はいずれも消費税抜き)

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posted by 山岡雄己 at 06:00| Comment(0) | 時評

2017年09月30日

外食業界におけるグローバル展開

 今月は,昨今の外食業界における海外展開事情について概観します。外食企業の成長戦略としては,M&Aによる規模の拡大と海外進出による地域の拡大という2つの方向性が考えられます。通常はいずれかに軸足を置いた成長戦略がとられますが,企業規模が大きくなれば2つを同時に行うことも可能です。
 回転寿司業界最大手のスシローと業界第5位の元気寿司が,経営統合の方針を固めたとの記事が掲載されました(日経朝刊:2017/9/29:1P)。年間売上高は,スシローの1,500億円に対して元気寿司は350億円ですが,元気寿司は海外展開に強みがあります。元気寿司は東南アジアでFC展開しており,現在の全店舗の半数にあたる海外店舗166店を,今後1年半で250店に増やすことを目指しています(日経朝刊:2017/9/26:17P)。両社を傘下に収めるコメ卸最大手の神明は,統合による規模の経済性の追求と,元気寿司の海外展開のノウハウを共有することによるシナジーを狙うもののようです。

 また新登場ブランドや後発組を見ると,「伝説のすた丼屋」のアントワークスは現在の米国3店舗に加えて2018年7月期中に欧州を中心に5店舗を新設(日経MJ:2017/7/26:15P),「京都牛勝」のゴリップは韓国での出店を足掛かりに2020年までに海外100店舗を目指す(日経MJ:2017/8/4:15P),焼肉の「牛繁」はベトナムを中心に海外店舗を2022年までに50店舗まで増やす(日経MJ:2017/9/8:15P)としています。
 一方,海外展開するにはある程度の企業規模が必要なのかというとそうではなく,日本で数店舗の直営店しか運営していないブランドでも,アジアへ進出するケースは少なくありません。アジアでは,日本食や日本ブランドに対する評価が高く,日本国内でのチェーン規模はあまり関係がないようです。ですから,日本での事業がそこそこうまくいっている外食企業であれば,人脈やネットワークあるいはタイミングによって,海外進出ということもあり得るのです。

 ところで,海外進出のパターンとしては,@直営店を直接海外で展開,A海外店舗の経営法人と日本企業が直接FC契約を行う,B海外パートナー企業に対して現地展開のライセンス権を与える,という大きな3つの方法が考えられます。現実的には,日本のやり方がそのまま海外で通用することはないので何らかのローカライズをする必要がありますし,現地スタッフを教育トレーニングしてサービスレベルを維持する仕組みも構築しなければなりません。このようなことを踏まえると海外パートナーの存在なくしてスムーズな現地展開は考えにくく,パートナー選び,契約による役割の明確化を念頭においてBのライセンス契約を考える必要がありそうです。
 そして当然,フェイタルストーリー(最悪のシナリオ)としての撤退基準まで考えておかなければなりません。実際に海外進出して成功するのは1000件に3件程度,とも言われています。現地企業からの熱烈なオファーを受けてもそこは慎重に,成功可能性を検証するフィジビリティスタディを欠くことはできないでしょう。

●元気寿司,FC展開により東南アジア250店を目指す(日経朝刊:2017/9/26:17P)
●さんわコーポ,海外初進出 台湾に鶏料理店を出店(日経MJ:2017/9/18:P15)
●「牛繁」ベトナムで拡大,先行する「牛角」を追う(日経MJ:2017/9/8:P15)
●チーズタルトの「BAKE」インドネシアに進出,海外7か国目(日経MJ:2017/9/1:15P)


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posted by 山岡雄己 at 18:38| Comment(0) | 時評