2017年09月30日

外食業界におけるグローバル展開

 今月は,昨今の外食業界における海外展開事情について概観します。外食企業の成長戦略としては,M&Aによる規模の拡大と海外進出による地域の拡大という2つの方向性が考えられます。通常はいずれかに軸足を置いた成長戦略がとられますが,企業規模が大きくなれば2つを同時に行うことも可能です。
 回転寿司業界最大手のスシローと業界第5位の元気寿司が,経営統合の方針を固めたとの記事が掲載されました(日経朝刊:2017/9/29:1P)。年間売上高は,スシローの1,500億円に対して元気寿司は350億円ですが,元気寿司は海外展開に強みがあります。元気寿司は東南アジアでFC展開しており,現在の全店舗の半数にあたる海外店舗166店を,今後1年半で250店に増やすことを目指しています(日経朝刊:2017/9/26:17P)。両社を傘下に収めるコメ卸最大手の神明は,統合による規模の経済性の追求と,元気寿司の海外展開のノウハウを共有することによるシナジーを狙うもののようです。

 また新登場ブランドや後発組を見ると,「伝説のすた丼屋」のアントワークスは現在の米国3店舗に加えて2018年7月期中に欧州を中心に5店舗を新設(日経MJ:2017/7/26:15P),「京都牛勝」のゴリップは韓国での出店を足掛かりに2020年までに海外100店舗を目指す(日経MJ:2017/8/4:15P),焼肉の「牛繁」はベトナムを中心に海外店舗を2022年までに50店舗まで増やす(日経MJ:2017/9/8:15P)としています。
 一方,海外展開するにはある程度の企業規模が必要なのかというとそうではなく,日本で数店舗の直営店しか運営していないブランドでも,アジアへ進出するケースは少なくありません。アジアでは,日本食や日本ブランドに対する評価が高く,日本国内でのチェーン規模はあまり関係がないようです。ですから,日本での事業がそこそこうまくいっている外食企業であれば,人脈やネットワークあるいはタイミングによって,海外進出ということもあり得るのです。

 ところで,海外進出のパターンとしては,@直営店を直接海外で展開,A海外店舗の経営法人と日本企業が直接FC契約を行う,B海外パートナー企業に対して現地展開のライセンス権を与える,という大きな3つの方法が考えられます。現実的には,日本のやり方がそのまま海外で通用することはないので何らかのローカライズをする必要がありますし,現地スタッフを教育トレーニングしてサービスレベルを維持する仕組みも構築しなければなりません。このようなことを踏まえると海外パートナーの存在なくしてスムーズな現地展開は考えにくく,パートナー選び,契約による役割の明確化を念頭においてBのライセンス契約を考える必要がありそうです。
 そして当然,フェイタルストーリー(最悪のシナリオ)としての撤退基準まで考えておかなければなりません。実際に海外進出して成功するのは1000件に3件程度,とも言われています。現地企業からの熱烈なオファーを受けてもそこは慎重に,成功可能性を検証するフィジビリティスタディを欠くことはできないでしょう。

●元気寿司,FC展開により東南アジア250店を目指す(日経朝刊:2017/9/26:17P)
●さんわコーポ,海外初進出 台湾に鶏料理店を出店(日経MJ:2017/9/18:P15)
●「牛繁」ベトナムで拡大,先行する「牛角」を追う(日経MJ:2017/9/8:P15)
●チーズタルトの「BAKE」インドネシアに進出,海外7か国目(日経MJ:2017/9/1:15P)


(無断引用,転載を禁ず)

posted by 山岡雄己 at 18:38| Comment(0) | 時評

2017年08月31日

外食業界におけるM&A事情

 今月は,成長戦略として, M&Aがどのように外食チェーンにおいて取り入れられているに着目しました。M&Aといえば,以前は大手チェーンにしか馴染みのないものと捉えられがちでしたが,最近では中小の独立系チェーンにおいても,事業再編の手段として盛んにM&Aが行われるようになっています。政府系金融機関である日本政策金融公庫では,3年ほど前から事業承継等に伴うM&A資金についても融資ができるようになりました(以前は,事業譲渡=事業の売買は融資の対象でしたが,資本政策=事業ではなく会社ごと買収するようなケースは融資対象外とされていました)。

 それでは,この1年の外食チェーンにおけるM&Aの案件を見てみましょう。
2017-08-22  ピックルスコーポレーションが子会社を個人に譲渡
2017-08-16  サーベラス・グループ、西武ホールディングスの全株式を売却
2017-08-09  「すためしどんどん」運営のガーデンが肉寿司を子会社化
2017-07-28  「かつや」運営のアークランドがバックパッカーズの66%株式を取得
2017-06-29  ユニー・ファミマHD、カネ美食品を子会社化 中食の品質向上目指す
2017-06-27  「はなの舞」のチムニー、マルシェと資本業務提携
2017-06-22  ヴィレヴァン、フード事業を分割 経営資源を本業に集中
2017-06-15  飲食店経営のバルニバービが菊水を連結子会社化
2017-06-14  総合商研がグリーンストーリープラスを子会社化
2017-04-27  ダイヤモンドダイニング、商業藝術の全株式を18億円で取得し子会社化
2017-04-17  TBIHD、ホリイフードサービスへTOB
2017-04-03  グルメ杵屋 、銀座田中屋の全株式を取得し子会社化
2017-02-14  梅の花、サトレストランのすし半事業を譲受

出所:M&Aキャピタルパートナーズ HPより転載
http://www.ma-cp.com/news/search2.php?d=13

 一部上場企業である「グルメ杵屋」が,老舗蕎麦屋の「銀座田中屋」を買収したケースが載っています。銀座田中屋は3店舗経営の中小企業ですが昭和43年創業の老舗であり,規模の経済の追求ではなくブランド価値にシナジー効果を期待した買収なのであろうと解されます。

 「かつや」のアークランドが「野菜を食べるカレーcamp」のバックパッカーズの主要株主になったのも興味深い案件です。フランチャイズ展開している「野菜を食べるカレーcamp」は,JR東日本系列の日本レストランエンタプライズと,メガジーであるセント・リングスが主たる加盟社となって店舗展開をしています。かつ丼とカレーがどのようなシナジー効果を生むのか,商品開発だけではなく加盟店開発の面からも注目されます。

 2015年10月にマザーズ上場したバルニバービが,京都の老舗旅館「菊水」を買収した案件も見られます。バルニバービは,串業態などを運営する「リアルテイスト」(直近期年商11億円)の買収も発表しました(日経MJ:2017/8/20:15P)。上場後,M&Aによる成長戦略に積極的に舵を切っているように見受けられる,バルニバービの今後の動きに注目したいところです。

 また今月は,「元町珈琲」を運営するスイートスタイルがブレッドカフェ業態を始めるという記事がありました(日経MJ:2017/8/16:15P)。スイートスタイルは,2017年4月にミツウロコHDの子会社となっており,3年前に米国大手ハンバーガーチェーンのカールスジュニアのライセンス権を買い取って日本展開を始めたミツウロコHDにとって,外食部門を強化するためのM&Aであったようです。



 ところで,M&Aでは買収先の企業価値を算定するために,いくつかのDD(デューデリジェンス)を行います。企業が適法に運営されているかを精査するために弁護士等が法務DDを行い,税務リスクの有無を調査し現時点での財務的な企業価値を算定するために公認会計士等が財務DDを行います。

 そして,これらに加えて,「過去に付加価値を生み出した仕組みがそのまま将来も価値を生み出し続けるか」を予測するビジネスDDが行われます。またビジネスDDでは,買収によりシナジー効果が得られるかを見極めることが大切で,買収先のポテンシャルを評価するのと同時に,内部統制システムの成熟度やマッチング度合いをスコアリングする必要もあります。具体的には,評価・教育・報酬・キャリアパスなど人事制度の構造,ロジスティックにおける設備やシステムの充実度,利益管理の精度・速度・仕組み,情報システムの導入状況など,およそ「ヒト・モノ・カネ・情報」といった経営資源のマネジメントの実態を把握しなければなりません。

 これらのレベルは高ければいいのかというとそうでもなく,買収側とのレベルとのギャップが小さいほうが買収後の事業統合(PMI=Post Merger Integration)を容易にさせることは想像に難くないでしょう。また,企業文化や風土の違いもPMIに影響があるので,そういった定性的な面も総合的に評価してM&Aの意思決定をするのが望まれます。

 残念ながら,成長戦略の一手段としてM&Aを捉えるのではなく,成長スピードにこだわるあまりM&Aありきで節操なく買収するケースもあり(特にIPO直後に調達した資金をM&Aに使いがち),ビジネスDDがおろそかになって結果的に高い買い物になる恐れもあります。我々チェーンビジネスにかかわる経営コンサルタントは,このようなビジネスDDにこそ力を発揮できる存在であるべきと,襟を正さずにはおられません。

(無断引用,転載を禁ず)

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2017年07月31日

人手不足に悩む,外食業界

 今月は,外食業界における人手不足が深刻化している昨今,各チェーンがどのような対策を講じているかに着目してみました。
 日本商工会議所が全国の中小企業4072社を対象に3/24~4/28の期間で行った「人手不足等への対応に関する調査」では,人手不足と回答した企業が全体では60.6%だったのに対して,宿泊・飲食業では83.8%となっており,全業態の中で最も高い数値となりました(日経MJ:12017/7/19:P11)。
 また東京商工リサーチの調査によると,2017年上半期の全国倒産件数(負債総額1000万円以上)は前期同期比0.1%減の4267件だったのに対して,飲食業は前年同期比15.1%増の388件と,3年ぶりの高水準となりました(日経MJ:2017/7/19:P11)。

ところでかねてより筆者は,これからの外食業生き残り戦略のキーワードは「機動力」,すなわちイートインだけではなく,テイクアウト,ネットショップ,ケータリング,デリバリーなどをいかに組み合わせて売り上げを上げるかがポイントだと主張してきました。この中の「デリバリー」に関して,人手不足を解消する取り組みを行っている企業の記事が掲載されていました。

 宅配業務について,大阪王将/イートアンドやスシローはネットデリバリーの「ウーバーイーツ」に,マクドナルドや吉野家は一部業務を「出前館」に委託する,とのこと(日経朝刊:2017/6/27:P13)。ピザなどの宅配専門の業態では,実際にお客様と接触する配達員(CP:コンタクトパーソネル)の接客スキルやコミュニケーションがリピート率に大きく影響するのですが,デリバリーを+αと捉える業態では自前のスタッフではなく「デリバリー」の専門業者に委託しても問題ないという判断なのでしょう。いずれにしても,外注により人件費コストを下げることができそうです。
 また,すかいらーくでは,自社の複数ブランドのデリバリー部門をまとめて,宅配ドライバーを共有する実験を始めました(日経MJ:2017/7/21:P15)。実験地区では,実際に宅配部門の売り上げが上がっているとのこと。ちなみにすかいらーくグループの2016年の宅配事業売上高は,前年比5%増の170億円となっており,ここ数年増加傾向は続いています。すかいらーくは,自社スタッフによる宅配部門の拡張と効率化を志向しているようです。 


●大阪王将やマクドナルドなど,宅配を外注へ(日経朝刊:2017/6/27:P13)
●マクドナルド復調,19か月連続増収(日経MJ:2017/7/10:P15)
●ファーストキッチン,ウェンディーズコラボ店を新規出店(日経MJ:2017/07/19:P.15)
●ホットランド/築地銀だこ,米国進出(日経MJ:2017/07/19:P.15)
●すかいらーく,グループで宅配ドライバーを共有(日経MJ:2017/7/21:P15)
●ラーメン「とん太」の秀穂,移動式茹で麺機を開発(日経MJ:2017/7/26:P15)


(無断引用,転載を禁ず)

posted by 山岡雄己 at 00:00| Comment(0) | 時評